
ウォーレン・バフェットが初めて株を買ったのは11歳のときだ。

シティーズ・サービスの優先株を3株、1株あたり38ドルで購入した。1941年のことで、彼はネブラスカ州オマハで育った少年だった。父親はハワード・バフェット。株式仲買人で後に下院議員になる人物だが、息子のウォーレンはそれよりずっと早い段階で「お金が好きだ」という自覚を持っていた。
その株は買ってすぐ27ドルまで下落した。ウォーレンは不安になりながらも売らずに待った。40ドルまで戻ったところで売った。利益は6ドルほど。ほっとした・・・が、その後、シティーズ・サービスは202ドルまで上がった。
この話をバフェットは何十年も後になってから笑いながら語る。「そのとき学んだのは2つ。焦って売るな、ということと、大きな利益を小さく切り上げるな、ということだ」と。
彼が生涯で学んだことの多くは、こういう小さな失敗の積み重ねから来ている。
オマハという場所

世界有数の資産家であるウォーレン・バフェットは、ネブラスカ州オマハにある、1958年に31,500ドル(約470万円)で購入した一軒家に現在も暮らしている。質素な生活を好む彼を象徴する住まいであり、約70年にわたって住み続けているこの邸宅は、現在では約140万ドル(約2億円)の価値があるとされている。 バフェットが暮らす自宅と、倹約を貫くライフスタイルには、いくつか興味深い特徴がある。1958年に3万1,500ドルで購入した。バフェットはこの家を「人生で3番目に良かった投資」と語っている。近年の不動産市場では、この住宅の価値は約140万~200万ドル(約2億円)まで上昇していると推定されている。自宅はアメリカ中西部・ネブラスカ州オマハ市の閑静な住宅街「ダンディー地区」に位置する。門や高い塀で厳重に囲まれた豪邸ではなく、レンガ造りのごく一般的な中規模の一軒家である。莫大な資産を築いた後も同じ家に住み続け、出勤前にはマクドナルドで数ドルの朝食を買うなど、合理的で無駄のない生活を送っていることで知られている。その生活ぶりは、富の大きさよりも資本配分の合理性を重視する、バフェットの投資哲学を象徴している。
世界有数の資産家が、いまだにネブラスカ州オマハの古い家に住んでいる。
1958年に31,500ドルで購入した家だ。日本円にして当時約1,100万円。今の価値で言っても大した額ではない。改築はしているが、引っ越すつもりはないらしい。朝はマクドナルドのソーセージマフィンを買い、昼はチェリーコークを飲み、夜はステーキかハンバーガーを食べる。
「私は好きなものを食べる。健康的なものを好む人が長生きするわけじゃない。幸せな人間が長生きするんだ」と彼は言う。
ウォール街から遠く離れたオマハに住み続けることに、彼なりの哲学がある。ニューヨークにいると情報の洪水に流される。毎日誰かが何かを叫んでいる。でもオマハでは、静かに考えることができる。
彼が「年次報告書を読む」と言うとき、文字通り年次報告書を何千冊も読む、という意味だ。10代の頃から、オマハの公共図書館に行き、企業の財務報告書を端から端まで読んだ。娯楽として。好奇心として。
ベン・グレアムとの出会い

バフェットの人生を変えた本がある。ベンジャミン・グレアムが書いた『賢明なる投資家』(1949年)だ。
19歳のとき、ネブラスカ大学の図書館でこの本を手に取った。読み終わったとき「霧が晴れた」と後に述べている。それまで自分がやっていたこと——株価チャートを眺め、タイミングを計る——が、本質的にギャンブルだったと気づいた。
グレアムの考え方はシンプルだ。株とは「企業の一部を買うこと」であり、市場の値動きは企業の本質的な価値とは別物だ。「ミスター・マーケット」という寓話を使って彼は説明する——市場は毎日あなたに株を買ったり売ったりする提案をしてくる、精神的に不安定な相手だ。機嫌がいい日は高い値段を提示し、落ち込んでいる日は安い値段を提示する。賢い投資家は、ミスター・マーケットの機嫌に振り回されず、本質的な価値を基準に判断する。
バフェットはこの考えに強く引き付けられ、コロンビア大学の大学院でグレアムの授業を受けたいと思うようになった。コロンビアのMBAプログラムに志願したが、出願期限を過ぎていた。直接グレアムに手紙を書いた。受け入れられた。
大学院でバフェットはグレアムの授業でA+を取った。グレアムがこれまでの教師人生で唯一つけたA+だったと言われる。
卒業後、バフェットはグレアムのファンドで働いた。当時の給料は月12,000ドル。彼にとって夢の職場だったが、グレアムが引退すると決めたとき(1956年)、バフェットはオマハに戻ることにした。
そしてそこから、バフェット・パートナーシップが始まる。
史上最大の「失敗」がバークシャーを生んだ

バークシャー・ハサウェイと聞けば、今では世界最大の投資会社の名前として知られる。時価総額は2023年末時点で約900兆円を超えた。
でも、この会社の始まりを知ると、少し笑える。
バークシャー・ハサウェイはもともと繊維メーカーだ。マサチューセッツ州の老舗紡績会社で、1955年に2つの会社が合併して誕生した。バフェットが株を買い始めたのは1962年のこと。当時の経営陣が「工場を閉じるたびに、株を買い戻すと約束した」という口約束を反故にしたことに腹を立て、バフェットは支配権を取るために株を買い続けた。
1965年、バフェットはバークシャーの経営権を握った。
そして彼はすぐ気づいた。繊維業は死にかけている産業だと。安い労働力を持つ国々との競争に勝てない。設備を新しくしても無駄だ。投じた資本が利益を生まない。
本来なら買うべきではなかった会社を、感情的な理由(経営陣への怒り)で買ってしまった。
バフェットはこれを自分の最大の失敗の一つと言っている。「バークシャーに投じた資金を最初から保険会社や優良企業に使っていれば、今頃の資産は2倍以上だったかもしれない」と。
それでも彼はバークシャーをそのまま持ち続け、繊維事業から得たキャッシュを使って保険会社(GEICO)や優良企業を買い始めた。器は間違えたが、中身を入れ替えた。
これがバークシャー・ハサウェイの本当の始まりだ。
チャーリー・マンガーが変えたもの

1959年、バフェットはチャーリー・マンガーという男に出会った。オマハのステーキハウスで、共通の知人に紹介された。2人はその夜、何時間も話し続けた。
マンガーはバフェットより7歳年上で、ハーバード・ロースクールを卒業した弁護士だったが、投資に強い関心を持っていた。彼の考え方は独特だった。「良い会社を適正な価格で買う方が、普通の会社を安い価格で買うよりいい」というものだ。
これはグレアムの教えとは微妙に違う。グレアムは割安さを重視した。安く買えるなら、そこそこの会社でもいい。マンガーは「本当に良い会社は、長期的に見れば適正な価格でも十分な利益をもたらす」と考えた。
バフェットはこの考えに最初は半信半疑だったが、徐々に影響を受けていった。1972年のシーズ・キャンディーズ買収がその転換点だった。
シーズ・キャンディーズはカリフォルニアのチョコレート菓子メーカーで、純資産の3倍の価格だった。グレアムの教えに従えば「高すぎる」。でもバフェットはマンガーに説得され、買った。2,500万ドルで。
この会社は以後50年以上で合計20億ドル以上のキャッシュをバークシャーにもたらした。
「チャーリーが私をグレアムの呪縛から解放してくれた」とバフェットは言う。以来2人は50年以上のパートナーシップを続け、2023年にマンガーが99歳で亡くなるまで、毎年バークシャーの年次総会で並んで座り続けた。
伝説の投資たち

バフェットの代表的な投資を時系列で並べると、彼の思考の変化がよくわかる。
GEICO(1951年、そして1976年)
バフェットが20歳のとき、グレアムがGEICOの取締役をしていることを知り、ワシントンDCの本社を訪ねた。土曜日だったが、たまたま財務担当重役のロリマー・デイヴィッドソンが出社しており、4時間話してくれた。このときGEICOのビジネスモデル(ブローカーを介さない直接販売で低コストを実現する自動車保険)を理解し、投資した。
その後1976年にGEICOは経営危機に陥った。バフェットは追加投資した。1995年、バークシャーは残り全株を買い取った。現在GEICOはバークシャーの主要収益源の一つだ。
アメリカン・エクスプレス(1964年)
「サラダオイル・スキャンダル」という事件で株価が暴落したとき、バフェットは逆に大量購入した。ブランドの本質的な価値は変わっていないと判断したから。バフェット・パートナーシップの資産の40%を1社に投じるという、当時としては驚くべき集中投資だった。
コカ・コーラ(1988年)
これはバフェット史上最も有名な投資の一つだ。10億ドル以上をコカ・コーラに投資した。理由は「世界中どこに行っても、人々はコーラを飲む。100年後も飲んでいるはずだ」というものだった。
当時の評論家は「成熟した飲料会社に今さら投資するのか」と首を傾けた。でも以来35年、コカ・コーラはバークシャーに莫大な配当を払い続けている。
アップル(2016年〜)
バフェットといえば「テクノロジー株は買わない」という印象が強い。実際、ドットコムバブルの頃は「理解できないものには投資しない」という姿勢を貫いた。
でも2016年、バークシャーはアップル株を買い始めた。バフェットは言った。「私が買ったのはテクノロジー会社ではなく、消費者製品会社だ」と。iPhoneは人々の生活に深く根づいており、ブランドへの忠誠心が高く、切り替えコストが高い。これはGEICOやコカ・コーラと同じ構造だ、と。
2023年時点でバークシャーの最大保有銘柄はアップルだ。
失敗の話
バフェット伝説の影に隠れがちだが、彼には大きな失敗もある。
ソロモン・ブラザーズ(1987〜1992年)
投資銀行ソロモン・ブラザーズに7億ドルを投資した。1991年、トレーダーが米国債の入札で不正を行っていたことが発覚。バフェットは会長として乗り込み、議会で証言した。「失ったお金は取り戻せる。でも失った名声は取り戻せない」という言葉を残した。なんとか危機を乗り越えたが、この経験は彼に大きな教訓を残した。
デクスター・シューズ(1993年)
メイン州の靴メーカーを4億3,300万ドル相当のバークシャー株で買った。そのあと安い輸入靴に市場を奪われ、事業は壊滅。しかもバークシャー株で払ったため、実質的な損失は数十億ドル規模に膨らんだ。バフェットは「これは私の最悪の取引だった」と言っている。
ConocoPhillips(2008年)
原油価格が高騰していた2008年に石油大手ConocoPhillipsを大量取得した。直後にリーマン・ショックが来て原油価格が暴落。数十億ドルの含み損を抱えた。「自分の強い思い込みで動いた。それが間違いだった」と認めた。
航空株(2020年)
2016年からデルタ、ユナイテッド、アメリカン、サウスウエストの航空4社の株を大量購入した。「以前は嫌いだったが、業界が変わった」という判断だった。
2020年3月、コロナウイルスによって世界の航空需要が蒸発した。バフェットは全株を売却した。損失は数十億ドル。年次株主総会で彼はこう言った。「航空会社について私は間違えた。これは誰のせいでもなく、私の判断ミスだ」と。
自分の失敗を、これだけ明確に認められる投資家はそう多くない。
株主総会という場所


毎年5月、ネブラスカ州オマハで「資本主義のウッドストック」と呼ばれるイベントが開かれる。
バークシャー・ハサウェイの年次株主総会だ。
数万人がオマハに集まる。バフェットとマンガーが(マンガーが存命のころは)並んで座り、6時間以上にわたって株主からの質問に答える。メモも資料もない。記者もなければ、事前に質問を知ることもない。ただ素手で問いに向き合う。
この総会に参加した人は「宗教的な体験に近い」と言う。世界中から来た投資家たちが、90歳を超えた老人の言葉を真剣に聞く。
バフェットは総会でよく笑う。自分の失敗について冗談を言う。難しい質問にも、はぐらかさずに答えようとする。「わからない」と言うときは「わからない」と言う。
そしてこう言う。「投資とは、単純なことだ。ただ、簡単ではない」。
彼の哲学を一言で言うなら
バフェット流の投資を要約しようとすると、いつも何かが抜け落ちる気がする。
「価値投資」という言葉は正しいが、不十分だ。「長期保有」も正しいが足りない。「優良企業を買え」もそうだ。
おそらく彼の本質は、これだ。
「自分が理解できるものだけに、長期的な視点で投資する。市場の声ではなく、企業の実態を見る。そして、待つことを恐れない」
彼は1942年に投資を始め、今も続けている。83年間。
93歳になっても毎朝5時に起き、新聞を5紙読み、年次報告書を読み、会社について考える。それが楽しいからだ、と言う。
「もし今日が最後の日だとしても、私は同じことをしているだろう」
オマハの老人は、今日も同じことを続けている。

投資家として押さえておきたい「バフェット語録」
「リスクとは、自分が何をやっているかを理解していないことから来る」
「価格はあなたが払うもの。価値はあなたが得るものだ」
「10年間保有するつもりがないなら、10分間も保有するな」
「素晴らしい会社を適正な価格で買う方が、適正な会社を素晴らしい価格で買うよりいい」(※これはマンガーの言葉を彼が引用したもの)
「他人が強欲なとき恐れよ。他人が恐れているとき強欲であれ」
「私の人生で最大の投資は、自分自身への投資だった」
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