iDeCo(イデコ)は「掛金が全額所得控除になる」という入口の節税ばかり注目されがちですが、実は出口、つまり「受け取り方」でも手取り額が数十万円単位で変わります。この記事では、一時金・年金・併用という3つの受け取り方の違いと、税金の計算の仕組み、具体的なシミュレーションをわかりやすく解説します。会社員として働きながら副業もしている方にとって特に見落としやすいポイントも紹介しますので、将来iDeCoを受け取る時期が来る前にぜひ知っておいてください。
はじめに 節税は「入口」だけで終わらない
「iDeCoは掛金が全額所得控除になるからお得」という話は、投資を始めた方ならほとんどの人が一度は聞いたことがあると思います。実際、毎月の掛金がまるごと所得から差し引かれるため、所得税と住民税がその分安くなります。
ただ、iDeCoにはもうひとつ大事な税金の話があります。それが「受け取るとき」の税金です。iDeCoは60歳以降にお金を受け取る制度ですが、実は受け取り方によって税金の計算方法がまったく違い、結果として手取り額に数十万円の差が出ることがあります。
「掛金を出すときは得だと聞いていたのに、もらうときに思ったより税金が引かれた」とならないように、今のうちから受け取り方の基本を知っておきましょう。
第1章:iDeCoの受け取り方は3種類ある
まずはiDeCoの受け取り方の選択肢を整理します。iDeCoは原則60歳から70歳(制度によっては75歳まで延長可能)の間に、次の3つの方法から選んで受け取ります。

1. 一時金(いちじきん)として一括で受け取る
積み立てたお金をまとめて一度に受け取る方法です。税金の計算では「退職所得」という扱いになります。
2. 年金(ねんきん)として分割で受け取る
5年から20年程度の期間に分けて、少しずつ受け取る方法です。税金の計算では「雑所得(公的年金等)」という扱いになります。
3. 一時金と年金を組み合わせる(併用)
一部を一時金でまとめて受け取り、残りを年金として分割で受け取る方法です。金融機関によって組み合わせ方の自由度は異なります。
同じ金額を受け取るとしても、この3つのうちどれを選ぶかによって税金の計算方法がまったく変わるため、手取り額に差が生まれます。ここが今回いちばん伝えたいポイントです。
第2章:一時金で受け取るときの「退職所得控除」
一時金として受け取る場合、税金の計算上は「退職所得」として扱われます。退職所得には「退職所得控除」という、かなり大きな非課税の枠があるのが特徴です。
退職所得控除の金額は、iDeCoに掛金を出していた期間(勤続年数に相当する期間)によって次のように決まります。

たとえば30年間iDeCoに掛金を出し続けた人の場合、退職所得控除は次のようになります。
800万円 + 70万円 ×(30年-20年)
= 800万円 + 700万円
= 1,500万円
つまりこの人は、iDeCoの受取額が1,500万円までなら税金がかからないということになります。しかも、退職所得控除を差し引いた残りの金額についても、さらに2分の1にしてから税率をかけるルールになっているため、他の所得に比べて税負担がかなり軽くなっています。
第3章:年金で受け取るときの「公的年金等控除」
年金として分割で受け取る場合は、「雑所得(公的年金等)」という扱いになり、「公的年金等控除」という別の非課税枠が使えます。ただしこちらは、退職所得控除のような「まとめて大きく控除する」仕組みではなく、毎年の受取額に応じて少しずつ控除される仕組みです。しかも、国から受け取る公的年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金など)と合算して計算される点に注意が必要です。
年齢と年間の年金収入額によって、控除額のおおまかな目安は次のとおりです(他の所得が1,000万円以下の場合の一例です)。

ここで注意したいのが、iDeCoの年金と公的年金(国からの年金)を同時に受け取る時期が重なると、控除枠を分け合う形になり、思ったより税金がかかるケースがあるということです。特に65歳以降で老齢基礎年金・老齢厚生年金の受給が始まっている方は、iDeCoの年金受取分もこの合算の中に入ってくる点を覚えておいてください。
第4章:シミュレーションで比較してみる
言葉だけではイメージがつきにくいので、具体的な数字でシミュレーションしてみます。ここでは「iDeCoの資産が2,000万円まで増えた」という想定で、拠出期間別・受け取り方別に、税金の負担がどう変わるかを比較します(社会保険料や他の所得は考慮しないシンプルな試算で、実際の税額は個人の状況により変わります)。
ケース1:一時金として受け取った場合(拠出期間別の目安)

※課税対象額=(受取額-退職所得控除額)÷2として概算。税率は所得税・住民税をあわせた目安。
拠出期間が長くなるほど控除額が大きくなり、税負担が軽くなっていく様子がわかります。iDeCoは早く始めるほど拠出期間が延びるため、節税の面でも有利になりやすいということです。
ケース2:年金として20年かけて受け取った場合
2,000万円を20年間で分割すると、1年あたりの受取額は100万円です。65歳以上で他の公的年金の受給と重なる場合、公的年金等控除の枠を公的年金と分け合うことになるため、実質的に課税される部分が出てくる可能性が高くなります。
ケース3:一時金と年金を併用した場合
たとえば1,000万円を一時金で受け取り、残り1,000万円を10年の年金で受け取るようなケースです。一時金部分は退職所得控除の枠内におさまりやすく、年金部分も1年あたりの受取額を抑えることで公的年金等控除の枠内におさまりやすくなる、というバランス型の考え方です。
以下は3つの受け取り方をざっくり比較した表です。

第5章:見落としがちな「退職金との重複」問題
会社員の方が特に注意したいのが、会社からの退職金とiDeCoの一時金を同じ年、または近い年に受け取るケースです。退職所得控除は「勤続年数」に応じて決まりますが、退職金とiDeCoの一時金を同時期に受け取ると、控除の計算上、勤続年数を重複してカウントできない「調整ルール」が適用される場合があります。
具体的には、会社の退職金を受け取った年から一定期間内にiDeCoの一時金を受け取ると、両方の勤続年数のうち長い方(重複する期間)は一度しか控除に使えない、という仕組みです。この調整ルールの詳しい年数や条件は制度改正で変わることがあるため、実際に受け取る前には、勤務先の人事担当者や税務署、ファイナンシャルプランナーなど専門家に最新の情報を確認することを強くおすすめします。
ここで大切なのは「退職金とiDeCoは別々のものだから、受け取り時期をずらせば税金の計算も別々になる」と単純に考えないことです。受け取る順番や時期によって手取り額が変わることがあるので、退職が近づいてきたら早めに試算しておくと安心です。
第6章:受け取り方を選ぶときのチェックポイント
ここまでの内容を踏まえて、受け取り方を考えるときのチェックポイントを整理します。
iDeCo受け取り方 チェックリスト
□ 会社の退職金はいくらもらえそうか
□ 退職金とiDeCoの受取時期は重ならないか
□ 公的年金(老齢年金)はいつから受け取る予定か
□ 拠出期間は何年になりそうか
□ 一時金・年金・併用のどれが合いそうか
特に「退職金の見込み額」と「iDeCoの受取時期」の2つは、会社員にとって見落としがちなポイントです。退職金規定は会社によって大きく異なるため、まずは自分の会社の退職金制度を確認するところから始めるとよいでしょう。
第7章:まとめ・行動提案
今回はiDeCoの「受け取り方」に焦点を当てて解説しました。要点を整理すると次のとおりです。
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iDeCoの受け取り方には「一時金」「年金」「併用」の3種類があり、税金の計算方法がそれぞれ異なる
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一時金は「退職所得控除」、年金は「公的年金等控除」という、それぞれ別の非課税枠を使う
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拠出期間が長いほど退職所得控除は大きくなるため、早く始めるほど有利になりやすい
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会社の退職金とiDeCoの一時金を近い時期に受け取ると、控除額の調整が入る場合がある
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制度は改正されることがあるため、実際に受け取る前には最新情報を専門家に確認する
iDeCoはまだ先の話だと感じている方も多いかもしれませんが、受け取り方によって手取りが数十万円変わることもある以上、早めに全体像を知っておいて損はありません。今日からできる行動として、まずはご自身の年金記録や会社の退職金制度を確認し、iDeCoの運用資産額を一度チェックしてみることをおすすめします。受け取り時期が近づいてきたら、金融機関やファイナンシャルプランナーに一度相談してシミュレーションしてもらうと、より安心して将来設計を進められるはずです。
なお、本記事の税金の計算方法や控除額は一般的な制度の考え方を紹介したものであり、実際の税額は収入状況や制度改正によって変わります。個別の税務判断については、税理士や年金事務所など専門家にご確認ください。
補足:よくある質問
最後に、iDeCoの受け取り方についてよく聞かれる疑問をQ&A形式でまとめます。
Q1. 受け取り方は途中で変更できますか?
受け取りを始める前であれば、一時金・年金・併用のどれにするかを選び直すことは可能です。ただし、金融機関によって手続きの締め切りや必要書類が異なるため、受け取りを始める半年から1年前を目安に、加入している金融機関(運営管理機関)へ確認しておくと安心です。一度年金として受け取り始めた後に一時金へ変更できるかどうかは商品によって異なるので、この点もあわせて確認しておきましょう。
Q2. 60歳になったらすぐに受け取らないといけませんか?
いいえ、必ずしもすぐに受け取る必要はありません。iDeCoは受け取り開始の時期を60歳から75歳まで(制度上の上限)の間で自由に選べます。そのままiDeCoの口座で運用を続けることもできるので、「まだ働いていて収入があるうちは受け取らず、退職後に受け取る」という選び方をする人も少なくありません。
Q3. 一時金と年金、結局どちらがお得なのですか?
一概にどちらが得とは言えません。退職金の有無や金額、拠出期間の長さ、公的年金の受給開始時期、他の所得の状況など、人によって条件が大きく異なるためです。この記事で紹介したチェックポイントを参考に、ご自身の状況にあわせて金融機関やファイナンシャルプランナーにシミュレーションを依頼するのが確実です。
Q4. 会社員から独立して自営業になった場合、iDeCoはどうなりますか?
iDeCoは働き方が変わっても口座自体は継続できます。ただし、加入者の区分(会社員・自営業・専業主婦など)によって毎月の掛金の上限額が変わるため、働き方が変わったタイミングで金融機関への届け出が必要です。受け取り方や税金の考え方は、拠出していた期間全体をもとに計算されるので、働き方が途中で変わっても基本的な仕組みは変わりません。
おわりに
iDeCoは「掛金を出す入口」の節税ばかりが話題になりがちですが、実際に資産を築いた後の「受け取り方」まで考えて初めて、制度のメリットを最大限に活かせます。今はまだ60歳が遠く感じる方も多いと思いますが、受け取り方によって手取り額に数十万円の差が出る可能性があることを知っておくだけでも、将来の選択肢が広がります。
今日紹介したチェックリストを参考に、まずは自分の会社の退職金制度と、iDeCoの運用状況を確認するところから始めてみてください。小さな一歩ですが、将来の安心につながる大切な準備になるはずです。
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