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大腿骨近位部骨折と大腿骨骨幹部骨折 ― 歴史から現代の治療、そして予後まで

こんにちは、くーみんです。

今日も投資コラムを書いていきます。整形外科医として手術室に立ちながら、お金にも真剣に向き合っています。少しでも参考になれば嬉しいです📝

整形外科専門医として、日々多くの患者さんと向き合っています。特に高齢化が進む日本では、大腿骨近位部骨折(いわゆる「股関節の骨折」)は年間20万人以上が新たに受傷する「国民的疾患」と言えるほどです。日本人女性の生涯リスクは約5人に1人。 一方、大腿骨骨幹部骨折は若年者では交通事故などの高エネルギー外傷、高齢者では転倒などの低エネルギー外傷でも起こります。

これらの骨折は、単なる「骨が折れた」状態ではなく、生命予後・機能予後・QOLに直結する深刻な外傷です。幸い、過去100年で治療は劇的に進化しました。本稿では、歴史的変遷から最新の分類・治療法・予後まで、写真やイラストを交えながら詳しく解説します。note読者の皆さん(患者さん、ご家族、医療従事者の方々)に役立つ内容を目指しました。

1. 導入:なぜこの骨折が重要か

大腿骨近位部骨折は、大腿骨頸部骨折(関節包内骨折)と大腿骨転子部・転子下骨折(関節包外骨折)に大別されます。頸部骨折は血流が乏しく、骨頭壊死や偽関節のリスクが高いのが特徴です。一方、転子部骨折は血流が豊富で骨癒合しやすいですが、粉砕が強いと不安定になります。

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大腿骨頚部骨折のAO分類

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大腿骨転子部(上2つ)・転子下骨折(最下段)のAO分類

大腿骨骨幹部骨折は、骨の中央部分の骨折で、髄内釘固定がゴールドスタンダードです。どちらも「早期離床・早期リハビリ」が治療の鍵。昔のように長期臥床を強いると、肺炎・褥瘡・廃用症候群・認知機能低下・深部静脈血栓症(DVT)などが連鎖し、生命を脅かします。

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大腿骨骨幹部骨折のAO分類

現在、日本では受傷後48時間以内(欧州では到着後36時間以内)の準緊急手術を目指します。多職種(整形外科医・内科医・麻酔科医・リハビリ・看護師・栄養士など)の連携が不可欠です。

2. 医学の歴史的変遷

古代〜19世紀前半:ヒポクラテス時代から、牽引(Buck’s tractionなど)と副木固定が主流でした。しかし、高齢者では長期臥床により肺炎や褥瘡で命を落とすケースが多かったです。骨癒合しても変形治癒や短縮が多く、機能予後は不良でした。

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牽引の一例

19世紀後半〜20世紀初頭:1840年代のエーテル麻酔、1860年代のリスター消毒法で手術の安全性が向上。1895年のレントゲンによるX線発見は診断を革命的に変えました。骨折の正確な評価が可能になり、手術計画が劇的に進歩しました。

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この画像は、1846年10月16日にアメリカのマサチューセッツ総合病院(ボストン)で行われた、世界初の吸入エーテル全身麻酔による公開手術の成功を描いた歴史的な版画・スケッチです。 

医学界ではこの記念すべき日は「エーテル・デー(Ether Day)」、そして手術が行われた階段教室(手術室)は「エーテル・ドーム(Ether Dome)」の名で広く知られています。ウィリアム・T・G・モートン(William T.G. Morton)
手前の左側に立ち、ガラス製のエーテル吸入器を抱えている人物です。ボストンの歯科医師であり、この公開実験でエーテル麻酔の投与を担当しました。 

ジョン・コリンズ・ウォーレン(John Collins Warren) 患者の右側に立ち、手術用メスを持っている年長の医師です。マサチューセッツ総合病院の創設者の一人であり、著名な外科医です。モートンの麻酔を信じて公開手術を執刀しました。エドワード・ギルバート・アボット(Edward Gilbert Abbott) 椅子に横たわっている患者です。首(顎の下)にできた腫瘍の切除手術を受けましたが、麻酔のおかげで痛みを感じることなく無事に手術を終えました。歴史的意義 この手術が始まる前、ウォーレン博士が「 gentlemen, this is no humbug(諸君、これはペテンではない)」と言い放った逸話は非常に有名です。それまで激痛を伴う恐怖の対象であった外科手術が、「痛みのない安全な手術」の時代へと突入した、医療の歴史を大きく変えた瞬間を象徴する一枚です。

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19世紀後半にイギリスの外科医ジョセフ・リスター(Joseph Lister)によって開発・使用された「リスター式石炭酸噴霧器(Lister’s Carbolic Steam Spray)」です。外科手術の際に、手術室の空間や術野(手術を行う部位)に石炭酸(フェノール)の水溶液を霧状に噴霧し、空気中の微生物を殺菌するために使用されました。ルイ・パスツールの「病原微生物説(細菌説)」に影響を受けたリスターは、術後の傷口の化膿や敗血症は大気中の細菌が原因であると考え、1867年にこの防腐法(消毒法)を確立しました。これにより、当時非常に高かった術後感染による死亡率が激減し、近代的な「無菌手術(無菌外科)」の先駆けとなりました。仕組み: 中央の金属製ボイラータンク内に水を入れ、下部から加熱して蒸気を発生させます。その蒸気圧を利用して、左側のガラス瓶から石炭酸液を吸い上げ、上部のノズルから周囲に勢いよく噴霧する構造です。その後の発展と廃止:この噴霧器は手術環境を劇的に改善した一方で、強い腐食性と刺激臭を持つ石炭酸の霧を満たすため、外科医や看護師の皮膚を荒らし、呼吸器を傷つけるという深刻な副作用がありました。さらに、術後感染の主な原因は空気中の細菌よりも、医師の手や器具、患者の皮膚に付着した細菌であると判明したため、1880年代後半には空間への噴霧は廃止されました。その後、医療現場は「薬剤で菌を殺す防腐法(アンティセプシス)」から、熱滅菌や手洗いによってあらかじめ無菌状態を作る「無菌法(アセプシス)」へと移行していきました。
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1896年1月23日に物理学者ヴィルヘルム・レントゲンが、解剖学者アルベルト・フォン・ケリカーの左手を撮影した歴史的なX線写真(レントゲン写真)です。公開デモンストレーション: レントゲンがヴュルツブルク物理医学会で行った最初の公開講演の最後に、聴衆の中からケリカー教授を招いてその場で手の撮影を行いました。「レントゲン線」の命名: 写真が現像され、骨と指輪が鮮明に写し出されたのを見たケリカー教授は深く感銘を受け、この未知の光線を「レントゲン線」と呼ぶことを提案しました。もう一つの有名な画像との違い: レントゲンが1895年12月に自分の妻(アンナ・ベルタ)の手を撮影した「最初のX線写真」としばしば混同されますが、あちらは薬指に1つの指輪が写っているのに対し、このケリカー教授の手の画像は指輪が2つ重なっているような独特の形状(または幅広のリング)が写っているのが特徴です。この発見は医療診断の歴史を大きく変え、レントゲンは1901年に第1回ノーベル物理学賞を受賞しました。

1930年代:大腿骨頸部骨折に対し、Smith-Petersenがtri-flanged nail(三翼釘)を開発。初期の内固定として画期的でしたが、回転安定性や沈み込みの問題がありました。

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Smith-Petersenの三翼釘(スミス・ピーターセンのさんよくてい、Smith-Petersen nail)ノルウェー生まれのアメリカ人整形外科医、マウリッツ・ニゴール・スミス・ピーターセン(Marius Nygaard Smith-Petersen、1886–1953年)。1925年頃に考案され、1930年代初頭にかけて広く普及しました。主に高齢者に多く見られる大腿骨頸部骨折(内側骨折)の内固定手術に使用されました。特徴と革新性 三翼構造(Three-flanged design) 釘の断面が「Y字型(3つのヒレ状の翼)」をしています。 丸いピンやネジとは異なり、この3つの翼が骨にしっかりと食い込むことで、骨折した大腿骨頭がクルクルと回ってしまうこと(回旋変形)を強力に防ぐことができました。この釘が登場する以前は、大腿骨を骨折すると患者は数ヶ月間も重いギプス(全身ギプスなど)でベッドに縛り付けられるのが普通でした。 骨折部をこの釘で頑丈に直接固定できるようになったため、術後早期からのベッド上の移動やリハビリが可能になり、寝たきりによる合併症(肺炎や褥瘡など)を劇的に減らしました。この三翼釘は、その後に開発された「Küntscher(キュンチャー)髄内釘」など、現代の骨折治療で主役となっている髄内釘固定法やロッキングネイルの発展に決定的なヒントを与えたと言われています。

1940年代:Gerhard Küntscherが大腿骨骨幹部骨折に対する髄内釘(cloverleaf型)を開発。第二次世界大戦中にドイツ軍で実用化され、戦後世界に広がりました。これが現代IM nailingの基礎です。

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1965年(昭和40年)7月に発行された医学雑誌「臨床外科」(第20巻・第7号)に掲載されたものです。日本の整形外科の歴史において重要な資料であり、「キュンチャー氏骨髄釘( intramedullary nail)による骨折手術」について解説された書籍や論文の一部です。著者は元・東京慈恵会医科大学整形外科教授の伊丹康人氏です。

1950〜60年代:AO/ASIF(Association for Osteosynthesis)の原則が確立。「解剖学的整復・強固な固定・生体力学の尊重・早期機能訓練」が世界標準に。1964年頃にSHS:Sliding Hip Screw, CHS:Compression Hip Screwが登場し、転子部骨折の標準治療となりました。SHSもCHSも呼び名が違うだけで同じコンセプトのインプラントです。DepuySynthes の商品はDHS(Dynamic Hip Screw)、MDMの商品はAPOLLONなど。

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AO Foundation & AO Trauma

AO (Arbeitsgemeinschaft für Osteosynthesefragen) は、1958年スイスで13名の外科医によって創設された骨折治療に関する研究グループです。約60年の時を経て、国際的、外科的、そして、科学的な研究財団(Foundation)へと発展し、世界各国20,000人以上の整形外科医・外傷医、手術室看護師(ORP)、獣医師が所属する世界有数の学術的組織となり、外傷及び骨接合法における”Global Standard”と呼ばれるほどになりました。
2008年には、より高度で専門的な外傷治療を目指す外科医に臨床・教育・交流の場を提供することを主な目的としたAO Trauma部門が設立されました。

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大腿骨近位部骨折(転子部骨折など) に対して用いられるスライディング・ヒップ・スクリュー(SHS:Sliding Hip Screw / CHS:Compression Hip Screw) を用いた内固定手術のイラストです。国際的な整形外科教育組織である AO Foundation (AO財団) の公式図版に基づいています。

1980年代以降:髄内釘のlocking screw(横止め)導入で、粉砕骨折や不安定骨折にも対応可能に。1990年代〜2000年代にProximal Femoral Nail (PFN)やPFNA(Antirotation blade付き)が登場し、骨粗鬆症骨でもカットアウトが減りました。PFN、PFNAというのはDepuySynthesが転子部骨折用に作ったインプラントです。他の多くのメーカーも類似機種を作っています。

現代(2010年代〜):低侵襲手術・骨粗鬆症薬(ビスホスホネート、デノスマブ、ロモソズマブ)の併用で、二次骨折予防と機能回復がさらに向上。Orthogeriatric care(整形外科と老年内科の協働)により死亡率低下が報告されています。この骨折部位でのナビゲーション/ロボット支援・3Dプリントガイドは流行っていません。正直それに使う時間(ナビやロボの設置時間や準備)や費用も無駄だと個人的には思います。なぜなら頚部骨折の内固定なら20分以下、人工骨頭置換術は20-30分前後、転子部骨折も20分前後で完了するからです。

3. 分類法

正確な分類は治療方針決定の基盤です。
大腿骨頸部骨折(Garden分類)

  • I型:不完全骨折、外反嵌入型(最も安定)

  • II型:完全骨折、非転位

  • III型:完全骨折、部分転位

  • IV型:完全骨折、完全転位(最も不安定、骨頭壊死リスク高)

簡略化すると「非転位群(I・II)」と「転位群(III・IV)」に分かれます。

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Garden分類

Pauwels分類(骨折線の傾斜角)も重要で、III型(>50°垂直型)は剪断力が強く不安定です。

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Pauwels分類

大腿骨転子部骨折
Evans分類やAO/OTA分類(31-A1安定型、A2不安定型、A3逆斜型)が用いられます。内側骨皮質の支持性(medial buttress)が鍵です。

大腿骨骨幹部骨折
AO/OTA分類(32-A/B/C:単純・楔状・複雑)。Winquist-Hansen分類で粉砕の程度を評価します。

4. 治療法の詳細

4-1. 大腿骨頸部骨折

基本方針:若年者(生理的年齢60歳前後まで)は骨頭温存(骨接合術)を優先。高齢者・転位が大きい場合は人工骨頭・人工関節置換術が主流です。

  • 骨接合術(ORIF:Open Reduction Internal Fixation):Cannulated cancellous screw 3本(逆三角配置)またはSliding Hip Screw 。解剖学的整復が必須。非転位例や若年転位例で選択。

  • 人工骨頭置換術(Bipolar Hemiarthroplasty):高齢・活動性が低い患者。セメント固定が周囲骨折リスク低減で推奨、術中のバイタル変化に注意。

  • 人工股関節全置換術(THA):活動的な高齢者や変形性股関節症合併例。機能予後が優れるが、脱臼リスクあり。

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https://medley.life/diseases/604832ae7ae9156861d18e08/details/knowledge/treatments/
から引用

若年転位例では、可能な限り解剖学的整復+内固定を試みます。複数回の整復操作は骨頭壊死リスクを高めるため注意。

4-2. 大腿骨転子部・転子下骨折

原則骨接合術

  • 安定型(A1):SHSで十分。

  • 不安定型(A2・A3):PFNAやGamma nailなどのcephalomedullary nailが優位(出血量少なく、早期荷重可能、カットアウト少ない)。

転子下骨折は応力集中部のため、長い髄内釘やlocking plateを使用。稀に人工関節置換も検討。

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4-3. 大腿骨骨幹部骨折

ゴールドスタンダードは髄内釘固定(IM nailing)です。

  • Reamed(髄腔拡大)髄内釘が骨癒合率が高く推奨。

  • アプローチ:antegrade(大転子頂点)またはretrograde(大腿骨遠位から)。

  • Locking screwで回旋・短縮を防止。

  • 開放骨折や多発外傷時はDamage Control Orthopedics(DCO):まず創外固定で安定化し、全身状態が落ち着いてから最終的な髄内釘固定。

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